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「おとうと」

今年79歳(昔風に書けば傘寿)になる松竹の現役名監督山田洋次氏の81本目の作品である。1931年生まれの79歳と書けば奇しくもこの時期に新作「インビクタス 負けざる者たち」が公開されたクリント・イーストウッド監督の一つ下。イーストウッド監督は30本目であるから、山田洋次監督の本数が多いことがすぐにわかる。まあ『寅さん映画』だけでも46本(全48作中2本は別の監督作品)監督しているのだから。また30本は黒澤 明監督が88歳の生涯で監督した本数でもある。

 「おとうと」の題名からは、すぐに市川 崑監督の昭和35年の同名の映画を思い浮かべた人も多いだろう。先日改めて50年前のその映画を見直したが、確かに似通っているところもあり、山田監督自身も『ヒントになった』ことと『市川監督のあの乾いたタッチはとても真似できないけれど。姉と弟の物語を僕だったらどう作るか と思ったのがはじまりですね』などと話していた。

 

 山田監督は老舗松竹映画を継ぐ最後の(?)正統派監督である。助監督時代を経て、30歳の時に「二階の他人」で監督に昇進した。その後も倍賞千恵子主演の「下町の太陽」「霧の旗」もあるが、ハナ肇主演の「馬鹿まるだし」などの喜劇の演出を多くしている。ただどれもプログラム・ピクチャーの域を出ておらず、二線級の監督と思われていた。一時テレビの演出もしており、その中に渥美 清主演の『男はつらいよ』シリーズがあった。その映画化が1969年。以後は皆も知っている通りである。テレビで殺した寅さんをスクリーンで甦らせ、史上最長のシリーズ「男はつらいよ」が1965年に生まれた。山田監督は第3.第4作を他の監督に撮ってもらい、第5作の「男はつらいよ 望郷篇」を演出してこれを終わりにしようと思っていたそうだが、会社側はシリーズ化を決定し、1995年の48作「男はつらいよ 寅次郎紅の花」まで続いた。翌年渥美氏の死去により、完全にこのシリーズが終了してしまったが、映画の中では愚兄の寅さんは死んでない。いや死なせられなかった。テレビ版の最後は寅さんが沖縄でハブにかまれて死んだのに、、。



 新作「おとうと」を鑑賞して、「山田監督は寅さんの最期をこの映画で我々に見せてくれたなあ」とまず思った。それが正しい解釈かどうかはわからないが、私の素直な気持ちである。

 10年ぶりの現在を描いた山田監督。かつて「寅さん」映画の合間にも「家族」「故郷」「同胞」「息子」「学校」などで、その時代時代の庶民の生き様を鋭く描いてきた。時には辛い現実を提示して、「寅さん」映画にはない世の中の厳しさを、笑いなしに描いてきた。前作「母べえ」は、戦前の話だったので、本当に久しぶりに現代を舞台にした映画だった。

 この映画を諸評論家は絶賛している。わが映画の友の良識派であるMさんも『ダイヤルMのブログ』の中で「滋味にあふれ、心地よい後味に浸れる見事な作品。<中略> すべてにおいて極めて水準の高い作品」と評されている。その感想に異論はない。

 しかし、私には何か不満が残った。まず観た直後の感想を書く。

『山田洋次監督らしい作品ではある。山田氏は老いてなお映画への情熱もあり、老舗松竹の屋台骨を背負っている責任もあり、大変だろう。また昨年奥様を亡くしたことも影響してか、ある男の粗野な生き方とその最期を姉や周囲の人々が看取る ということを描いている。監督の死生観も窺えよう。ただこれまでの山田監督の姿勢として臨終の間際まで映像でみせるのはどうか? またその死を看取る身内がいることは人として幸せなことだろうか? などを改めて感じた。生きている時には、身内 特に(吉永小百合扮する)姉とその娘(蒼井 優)に多大な迷惑をかけてばかりいた中年の弟(笑福亭鶴瓶)が最期の時を迎えた時に、その姉らがどのような行動をとるべきか、いやとったのかを見せてくれた。生きている時は大変な人でもみな最後は仏になる という仏教的な考えが、かつての日本人には普通にみられた。これこそが日本人(いやどこの民族でも同様であろう。ただし今の現在の日本人にはあてはまらないかもしれないが)の良さや優しさであったし、『血は水よりも濃い』ために、縁は切れないし、最期は争わない という日本の家族のあり方を一貫として描いてきた山田洋次監督の姿勢でもあろう。ただ、このキャストがベストだったのかどうかが疑問だ。私にとって吉永小百合はどの役でも彼女自身にしか見えない。これは私の偏見かもしれないが、いくら様々な役作りをしてもどれも同じ役にしかみえない。それも「いい人」にしか、、。さらに「賢姉愚弟」の構図を始め、周囲の人間関係も皆ステレオタイプに見え、安心して観られるともいえるが、面白みがない。画面に出てくる人がみな「いい人」でよいのか?』
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テーマ:映画館で観た映画 - ジャンル:映画

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